恋愛・生殖

人間がなぜキスをするのか、私たちはなぜキスを愛情のシグナルだと認識できるのか

この記事の要約:キスというのは相手の唇に自分の唇を押し付け、口の中に舌を差し入れまでする。この行為は感染症のリスクが高く、適応的でない(=生存に不利を被る行為)。このような生存上の不利を被る行為ができるほど、相手に対して生存・生殖的な価値を認めているということ。

以下、キスなどの行為をハンディキャップ原理から説明する。

サピエンスは友情・信頼・恋愛関係において互いに絆を結ぶ動物だ。一般的に、生物の二個体間の「社会的な絆の強さ」は、パートナーにコストを課すことで “検証/test” できる。これはアモツ=ザハヴィのハンディキャップ原理(HP)を応用した考え方だ。進化生物学者のダリオ=マエストリピエリは語る…

“ 絆の検証(testing the bond)の意義は、1977年にイスラエルの進化生物学者、アモツ・ザハヴィによって発表された「絆の検証」という論文で脚光を浴びた。彼は、この論文で協力とコミュニケーションについていくつもの新しい、しかし反論の多い考えを提示した。”

“ 進化生物学者としてザハヴィは、お互いに遺伝的関係のない個体間の協力関係は、血縁関係のあるメンバーに伴う協力関係よりも〔遺伝的な利益を共有しないために〕本質的に安定しないと論じた。”

“ 血縁関係のない二個体も、周知のように共通の利益を両者が共有し、パートナーがいなければ達成が難しいか不可能な目標───例えば子作りなど───を一緒に追い求めたいと考えるので、協力関係を築くことがある。”

“ しかし協力関係を一緒に保っていく環境は、すぐに、そして予測不能なほどに変化し得ることをザハヴイは認めた。したがってザハヴィが強調したように、投資を続けるか撤退するかを決めるために、絆の強さを頼繁に確かめること、パートナーの約束を評価することは重要になるのだ。”

“ 人間の恋愛関係を例に取ってみよう。恋愛関係の相手に対してその関係の相互の約束を評価する直接的な方法は、お互いにいつも次のように尋ね合うことだ。「私を愛してくれている?」、「私を愛しているって本当?」、「いつまでも私と一緒にいたいというのは、確かね?」。”

“ 愛し合っているカップルは、当然のようにいつもこう言い合っている。ところが残念なことに、これは約束を評価するのに一番信頼できる方法ではないのだ(動物なら、それは全く選択肢に入らない)。人は時には不誠実であるし、自分の感情や将来の行動に関して愚かでさえある。”

“ ザハヴィの最初の思いつきは、ある関係がどれほどの価値があるかを評価する最も信頼できる方法は、市場価値、すなわちそれを求めるためにどれだけ多くの代価を支払う意思があるかどうかを評価することだというものだった。”

“ 職場のボスがあなたに君は有能な職員だと言い、いつもあなたの仕事ぶりを賞賛していることはよくあることだが、あなたのボスがあなたにどれだけの価値を認めているかの最良の物差しは、ボスがあなたに支払う意思のあるサラリーである。言葉は安いけれども、マネーは安くはないのだ。”

“ マネーが伴わない場合、人が商品に対して支払う意思がある代価は、別の通貨で算定できる。動物にとって最も有意義な通貨は、適応度、すなわち個体が生存でき、かつ繁殖できる能力である。適応度こそ、自然淘汰が取引に使う通貨なのだ。”

“ 商品(例えば食物、交尾相手、同盟のパートナーとの関係など)としての動物の価値を評価するには、その商品を獲得したり維持したりするために、その動物が進んで自らの生存や将来の繁殖を危険にさらそうとする程度を測定しなければならない。”

“ ザハヴィによれば、「もう一つの個体のコミットメント〔=約束された行動の縛り〕について、信頼できる情報の得られる唯一の方法は、他の個体に負荷を負わせること───自己に対して弊害をもたらすように行動すること、である」。”

“ この絆の検証メカニズムで得られたコミットメントについての情報は、誠実に約束された唯一のパートナーがこの負荷を進んで受容するので信頼できる、とザハヴィは考えている。”

“ 負荷を次第に高め、パートナーがその相互作用をやめようとする点を決めることによって、その関係への他個体のコミットメントとそれに投資しようとする最新の意思についての正確な情報が得られるのだ。”

“ 自分の同盟のパートナーがその関係にどれだけの価値を感じているのかを正確に知りたいと望むオスのヒヒは、頭を打たれるか噛みつかれるまで、パートナーの宰丸を握り続ける。”

“ ネガティブな反応を受ける蓋然性は、時間がたつと指数関数的に増えるから、一秒でも儀式を引き延ばせることは、コミットメントの強さを示す重要な成果〔=証〕なのだ。”

“ 社会的な絆の強さはパートナーにコストを課すことで検証できるというこの考えは、ハンディーキャップ原理(HP)と呼ばれるもっと一般的な仮説の一つの応用である。ハンディキャップ原理は、1975年にザハヴィによって初めて提唱され、その後の年月をへて洗練化された。”

“ HPは、動物がコミュニケーションをとる際、ごまかしがなかったり信じられそうもなかったりする情報がなぜ存在するのかを説明するために発展したが、他の多くの現象を説明するのにも応用できることが分かっている。例えば後に述べるが、人間の行動の多くの側面にも応用できる。”

“ HP理論の重要な考えは、安っぽいシグナルは偽造しやすく、誰でもそれを発信できるが、高くつくシグナルは優れた個体だけが所有する資場 源を必要とする、というものだ。したがって高くつくシグナルは、そのシグナルを使える個体の質の高さについてごまかしのない情報を伝えていることになる。”

“ 伝えられるところではザハヴィは、クジャクのオスがなぜ大きくて華麗な尾羽を持ち、クジャクのメスはなぜ最も長く、最も重そうな、飛ぶのに一番邪魔になる尾羽を備えたオスと番いになるのを好むのかの理由を学生に説明しようとして、HPの着想を得たという。”

“ 大きな尾羽が作るのに苦労もしない安っぽいものでよいなら、オスというオスはみんな、年齢、体長、力強さ、健康にも関係なく、そうした尾羽を持とうとするだろう。しかし大きな尾羽は、安っぽくはなく、オスの生存にとって現実に弊害をもたらすかもしれない。”

“ するとそれは、作るのに高くつくものとなるし、クジャクが飛ぶのに邪魔にもなり得る。その結果、捕食者から逃れる能力を減じる可能性がある。強くて健康なオスなら、大きな尾羽を持つ余裕があるが、弱くて健康でないオスなら、そんなゆとりはない。”

“ ザハヴィの用語を用いるなら、クジャクの尾羽はハンディキャップなのである。───それならオスは、そんなハンディキャップをなぜあえて背負おうとするのか?たぶん単純なことだ。自分はハンデを負うことができるんだぞ、とメスに見せつけるためだ。”

“ オスは、自分がいかに良いクジャクなのかをメスに示すために自らを不利な立場に置いているのだ。そしてそのハンディキャップが大きければ大きいほど、そのオスは健康で強いということを見せつけることになる。”

“ このようにHP理論によれば個体は、自分自身に害悪となる特徴を誇示することで逆に自らの優良さを合図しているのだ。ハンディキャップを伴う合図は、そのコストのために本質的にごまかしがない。メスは、そうした合図を誇示するオスを信用し、そのオスを交尾相手として魅力的だと認めるのである。”

“ もちろん大きくて高くつく尾羽を備えて自らを生存に不利にするクジャクは、それを意図してそんな選択をするわけではない。意識的な考えではない性海汰が、大きな尾羽を進化させるのだ。”

“ そうした尾羽を作るコードを載せた遺伝子を持ったオスは、メスにとってそうでないオスよりずっと魅力的だから、他のオスよりはメスにえり好みされ、仔を多く残す。 そうやって集団内にその遺伝子のコピーがさらに多く残され、広がっていくのである。”

“ クジャクの尾羽は、身体的ハンディキャップの好例だが、行動面のハンディキャップもある。行動面のハンディキャップには、自らの生存の可能性を減らすリスクをとることを伴う。”

“ 行動面のハンディキャップの典型的な例に、アフリカに暮らすガゼルがライオンのような捕食者の前で誇示する ストッティング行動(捕食者の眼前で逃げずにあえてびょんぴょん跳びはねる行動)がある。”

“ ガゼルがライオンを目にすると、できるだけ素早く逃げようとする代わりに、ライオンの眼前で上下に跳び跳ね始める個体もいる。彼らはなぜ時間とエネルギーを浪費して、自分の命を危険に晒しかねない行動をとるのだろうか? ”

“ ザハヴィの答えは、こうだ。ストッティングはハンディキャップであり、一部のガゼルはいかに自分が強く、速いかを伝えるために、そうした行動をとるのだ、と。彼らは、自分を捕まえるのは難しいから、追っても時間のムダだよ、とライオンに伝えているというわけだ。”

“ これでライオンには、捕まえるのがもっと楽な獲物、つまり素早く逃げ去ろうとする他のガゼルを追いかけた方が楽だと思わせるのだ。… ”

“ 社会的な絆の検証に関するザハヴィの考えは、ハンディキャップ原理の比較的に小さな応用の一つである。”

“ 基本的にHP理論は、個体は自らの出すシグナルの信頼性を証明するために不利益を引き受けねばならないと主張しているが、その一方、絆検証の仮説は、個体は自らに向けられる他者の態度から信頼できる情報を引き出す目的で他者に不利益を課さねばならないと提唱している。”

“ …歳月をかけ、研究者たちは動物や人間が社会的な関係構築という背景で行っている一見すると矛盾して見える行動の例を集積している。そしてこれらの行動は、ザハヴィの見方と矛盾していないように見えるのだ。”

“ 自身の理論的な研究とは別に、アモツ·ザハヴィは長年、イスラエルに住む鳥の一種であるアラビアヤブチメドリの行動の観察と研究を行ってきた。アラビアヤブチメドリは、2個体から20個体から成る群れを作って暮らし、子育てと隣の群れに対しての共通の縄張り防衛で協力している。”

“ ザハヴィがハンディキャップ原理による絆検証のアイデアを初めて発表した時、彼が最もなじみ深い種であるアラビアヤブチメドリの観察例を用いた。彼は、オスが求愛中に時にはメスに対していかに攻撃的に振る舞うかを述べた。”

“ そのオスに興味を示さなかったメスは、自分たちの縄張りを立ち去り、再び戻ってくることはなかった。一方で、そのオスに心底から興味を持ったメスは、繰り返される攻撃にもかかわらず、それを耐えた。”

“ ザハヴィの見解では、この攻撃こそハンディキャップ(不利益行動)なのである。その行動で、アラビアヤブチメドリのオスは、メスに対し、番い相手として自らがふさわしいことの検証(testing)を課しているのだ。”

“ ザハヴィはまた、アラビアヤブチメドリは互いの絆の強さを試すために他の個体の羽繕いをするとも主張した。”

“ あるアラビアヤブチメドリ個体は、他の個体の頭や身体の羽をつついて羽繕いをする。社会的関係の近さを物語る典型例だ。その間、羽繕いを受けている個体は、静止したままで、その交流を容易にさせているという。…”

“ オマキザルは、多数の成体のオスとメスで構成された大集団で暮らす南アメリカ産の小型霊長類である。マカク、ヒヒ、チンパンジーのようにオマキザルも、個体が対抗的同盟の形成を通じて社会的地位を争う高度に競争的な社会で暮らしている。”

“ スーザン・ペリーは、長年… オマキザルを観察してきた霊長類学者だが、彼女はオマキザル個体が自分のお気に入りの社会的パートナー──三匹は攻撃的同盟を形成している間柄だ──の忍耐力を、あらゆる種類の身体的に煩わしく、苦痛な行動を受けさせることによって、定期的に試す行動を報告した。”

“ 例えばあるオマキザルの若いオスが、自分のお気に入りの社会的パートナーのそばに歩み寄り、指を鼻に突き刺し、反応を待つことがある。もし二匹の関係が良好なものだったら何も起こらないが、相手が二匹の関係について当初の情熱を失っていたとしたら、指を刺されたサルはそれを振り払う。”

“ ペリーは、強い社会的絆を持つ二匹のオマキザルが、時には互いの鼻に同時に指を挿入し合い、「共にトランス状態に似た表情を浮かべ、時には揺れ動きながら、数分間もの間、この姿勢のまま座っていた」ことに注目した。”

“ さらにオマキザルは、お気に入りの同盟相手の顔から毛を引っ張ったり、耳を噛んだり、指や爪先をしゃぶったりしてひどく苦しめることもする。”

“ 2003年に出版された『カレント・アンスロポロジー』誌に載せた論文で、ペリーと共同研究者は、こうした交流の機能は、社会的斜の強さを試すことだ、と述べた。”

“そうした行動を受けた個体から肯定的な反応があれば… 良好な関係を示しているのであり、これからもその関係に投資をする意思を表しているのだろうという。こうした負荷に耐えられると、二匹のパートナー同士は互いに長時間、毛繕いを行い、他のサルに対する同盟を続けるのだそうだ。”

“ …スーザン・ペリーの夫で、やはりUCLAに在籍し、彼女とともにコスタリカでオマキザルを観察しているジョー・マンソンは、成体メスが自分と毛繕いし合い、攻撃的同盟を形成しているメスのアカンボウをしばしば触って、短時間、腕に抱えることに注目した。”

“ オマキザルの母親は、自分の子どもをこんな風に扱われるのを好まない。幼体に危害を加えられかねない機会が常にあるからだ。”

“ そのうえでマンソンは、この行動に対する母親の容認は、”加害者” のメスとの社会的絆の価値を評価しているのであり、そのメスへの同盟上の支援を喜んで与える意思のあることを示すものだと推測した。”

“ 絆検証の論法は、幼体にもあてはまるだろう、とマンソンは推定した。幼体が母親ではないメスの背によじ登る場合、この幼体は、将来、その必要が起こったら、自分の世話をしてくれる意思があるのかどうかを試しているのだという。… ”

“ 危険で、相手を煩わせる親密な交流を通じての絆検証は、他の動物社会でも目立つ。… 家犬は、一般に飼い主に依存しているから、イヌにしてみれば、自分が安全かつ健康に眠れるかどうか、街路に放り捨てられることを心配すべきかどうかを知ろうとして飼い主との絆を試すのは死活的に重要である。”

“ザハヴィによれば、愛犬があなたの膝に飛びついてきてあなたの顔をペロペ口紙めたり、あなたが今していることを邪魔したりしている時は、あなたがどれほどまだ自分を愛しているのか、自分は飼い主と家犬という関係を約束されているのかを調べる為に、あなたにその行動を課しているということになる。”

“ 情報を集める必要性は、飼い主がしばらくどこか気に行っていたり、どこかに行こうと準備していたりする後では、特に大切だ。こうした行動をとる時は、両者の関係の位置を調べるのに決定的に重要なのだ。”

“ もちろん愛犬があなたの顔を祇める時、イヌはあなたに親愛の情を示しているのだとあなたは考えるだろう。 だが親愛の情がなぜそんな特殊な方法で表示されるのかを不思議に思わなければならない。”

“ 愛情と親愛の情の表現は、ストレスを生じる、時には攻撃的でさえある要素をしばしば含む、とザハヴィは張する。受け入れる側の受容とそれに耐える忍耐は、自分との関係にさらに投資し続けようという現在の意欲に対する信頼できる証拠をもたらしてくれるからだ。”

“ この観点からすれば、膝や背中に抱きついてきたりといった両親に対する子どもの示す親愛の情の行動の多くは、本質的にストレスを生じさせる行動から子どもの意思を伝えるという価値を引き出しているのだ。”

“ こうして見ると、我々が愛の印として示すシグナルのすべては、何らかの押しつけ、負荷ということになる。キス、抱擁、性的愛撫は、私的空間に侵入し、動作の自由を損なっている。”

“ 互いの手を何時間も振握っている恋人同士は、互いにその間に手の自由を諦めている。これはかなり負担感の大きい押しつけだ」と、ザハヴィは述べる。”

“ 長く、情熱的なキスを交わす恋人同士は、それぞれの口中に舌を差し入れている。これは、個体の生存にとって全く煩わしく、感染症のリスクさえ備えた負荷である。恋愛関係にあると完全に約束されている恋人同士だけが、相手からこの種の過大な押しつけを受け入れるのだ。”

“ 愛の関係での相手のコミットメントを頻繁に評価し直す意義は… 、このテーマに関する専門家である進化心理学者のデイビッド・バスが自著『危険な愛情: なぜ嫉妬は愛とセックスのように必要なのか (Dangerous Passion: Why Jealousy Is As Necessary As Love and Sex)』で説いていることである。”

“「コミットメントとは、個々人の財政状況、評判、年齢、健康、ストレス、地位などに応じて、日々、変わっていくものだ。自分の恋人のコミットメントを買いかぶっている女性は、パートナーの男性から捨てられ、評判を傷つけられ、子育てを独りで担うという困難な任務の押しつけられるリスクを負う。」”

“「パートナーのコミットメントの買いかぶりは、出会いの機会を逃すコストにもつながる。今の恋人と過ごす時間は、もっとよい男性を誘惑できる可能性を引き下げているのだ。」”

“「パートナーの男性のコミットメントの真の水準を過小評価することも、自己達成予言につながり、やはり犠牲が大きい。」”

“「たとえばそうした計算間違いは、相手に同じことをするように駆り立て、それによってお互いに引いてしまい、恨むという下方へのスパイラル的降下を引き起こすので、あなたに自分のコミットメントを弱めさせることになるだろう。… 二人の関係の解消という辛い結果となりかねない。」”

“ セックスを含む愛情表現は無駄で、危険で、ストレスが大きく、場合によっては苦痛の大きい負荷、押し付け───すべてハンディキャップという特性───だというザハヴィの主張は、少し悲観的なように思えるが… ”

“ … いわば一緒にチェスをする代わりに、なぜ愛し合っている相手が舌を互いの口中に差し込んで愛を表現するのかと思うのは、他のことはともかく、心の糧となる合理的な疑問を発することだ。”

“ ザハヴィはまた、さほど論争の的とはなっていない説も提唱している。それは、なぜ古くからの友だち同士が時にはからかったり、ばかにしたり、ひっぱたいたり、殴ったりし合うのかを絆の検証仮説が説明しているとする説だ。”

“ 言葉による攻撃と肉体的攻撃は、今も付き合っている古くからの友だちだけが耐えられる負荷であるのは明らかだ。映画「グラン·トリノ(Gran Torino)」はクリント·イーストウッドが主役(彼は監督も務めた)を演じているが、その主役はウォルトという名の、朝鮮戦争に出征した無愛想な老退役兵である。”

“ 彼は、自分の所の見習い、タオという名のモン族の十代の少年に、社会生活での生き方を何とか教育しようと努めている。ウォルトは、隣の床屋と友だちだ。二人とも、顔を合わせる度にからかい合い、人種的偏見に満ちた侮辱を言い合った。”

“ ある日、ウォルトはタオを床屋に連れて行き、いつものように人種的中傷を友だちに浴びせて挨拶した後、タオに向き直って、こう語る。「ほらな、タオ。男ってのは、互いにこうやって話すんだ。さあ、外に出ろ、そして戻ってきたらな、あいつに男のように話しかけるんだ、本当の男のようにな」。“

“ タオは、嫌々ながらウォルトに言われるようにする。店に戻って、床屋にこうしゃべるのだ。「いかしてるか、お前さんの勃たないイタ公のチンポは?」。床屋はタオにかんかんになり、ライフルでお前の頭を噴き飛ばしてやる、と凄む。”

“ このシーンは、ザハヴィの絆検証仮説の背景をうまく説明している。つまり人は、良い友だちから受ける負荷には喜んで耐えるけれども、知らない者から受けた侮辱には怒り狂うのだ。このように他人に負荷を課すことは、人同士の関係の質について、信頼できる情報をもたらしてくれることがある。”

– D.Maestripieri 2012 『Games Primates Play: An Undercover Investigation of the Evolution and Economics of Human Relationships/邦題: ゲームをするサル』より