恋愛・生殖

女性がインスタに夢中になる理由を進化心理学から考察する

雑に言うと、
「自分が人気のメスであると、優秀なオスに思わせることで彼らの精子をもらう」
ためである。
この文章で納得がいかなかった人は↓を読み進めてほしい。かなり長いが。

ヒトは基本的に非モテ男が連合して石器時代における民主主義を組み(そうやって意図を共有して集団制裁体制が築けるのはヒトだけ) 、過剰なエロと浮気セックスとヤリチンを「悪」としてそれらに淘汰圧を掛け、結果的にみなが、性規範に関する「善」の感覚を進化させてきた。

つまり、群れ内のオスのそれぞれに「1人1つまで!」とメスを1個体ずつ配分することで、表向きの配偶競争を抑制し、部族集団としての社会秩序(Social Order)を形成した。

Order! (整列せよ、秩序化せよ、序列化せよ、身分化せよ、治安を維持せよ、体制化せよ、群化せよ、結社せよ、規則遵守せよ)の号令を聞くと、ヒトは逸脱者の検出と迫害へ向かうようできている。性規範はそうして守られていくのだ。

お分かりだろうか。そもそも太古の時代に(性淘汰ゲームで必然的にマジョリティとなる)非モテ男同士が、連合を組んで「No!性淘汰」運動みたいなのをルサンチマン的にやった結果として成立したのが、一夫一妻という共産主義的な恋愛システムであった可能性が高い。

先史時代のヒト進化のある段階で、「1人1つまで」という結婚規範が、隠れた浮気の存在(メスがモテるオスの配偶子を取り込む)とともにESS/進化的に安定な戦略としてのナッシュ均衡にみちびいた。けれども「メスをめぐる競争本能」をヒトのオスが完全に封じ込められるわけでもない。どうなったか?

ヒトのオスは「つがうメスのクオリティ(性的な質)」を巡って競うようになった。それまでの配偶競争ではオスはセックスする異性の「数」を求めていたが、これによって主要な競争基準が一気に「質」へと転換する。つまり、より美しくて、より健康で、より若くて子供をたくさん産めるメスを望み始めた。

すると女性たちは、あっという間に男性たちの性的な好みのままにそのカラダのデザインを改造されていった。彼女たちの身体の各部分が、よりセクシーに変化していくという進化が生じた(一夫一妻であっても、ステータスやモテ度が高い男性と配偶できた女性の子孫は繁栄した→魅力的な女性が増えていく)

これがヒトの女性が経てきた「セクシー進化」。ふつうの哺乳類のオスは異性の質よりも数を巡って争うので、メスはそれほどセクシーに進化しない(地味)。しかし魅力的なオスの配偶子が手に入りにくい、太古のヒト社会のような環境であれば、人気のオスをめぐって多数のメスが争いあう構図が生まれる。

したがって、ヒトの女性が一握りの魅力的なモテる男性をめぐって闘争するのは、一夫一妻が(タテマエ上の)性規範として成立して以来に生じた、比較的新しい本能だ。

自然界では基本的に、魅力的な男性の配偶子(=精子)は「応募者全員サービス」であり、希望者全員に平等分配だ。そのためジャニオタの女性はライバル達とも協力的かつ連合する。が、リアルではモテるオスを独占しようとする「ワガママ」な女(=彼女や妻)が現れるので協力不可能となり、闘争になる。

サピエンスの女性が「着飾る」ことで多数のオスの視線を集めようとするのは、男性たちの垂涎をあつめ、女性としてのブランド価値を高めることで、魅力的なモテる男性からは精子投資を、扶養者の候補たちからは育児投資を引き出しやすくなるから、というのが進化心理学の説明。

これがすべての女性がインスタ更新にやたらと励む理由。モデルやアイドルになりたがるのもそう。承認を集めたがるのもそう。非モテ男からの「いいね!」をいっぱい集め、自分のブランド価値を高めることで、一握りのモテるオスや良パパオスに見初められやすくなるというディズニープリンセスドリーム。

つまり、サピエンスの女性が大多数の非モテ男性たちに「セクシーなディスプレイ」をするのは彼らの「いいね」を狙ったものではあるが、しかし彼らから性的アプローチを受けたいと思うものではない。あくまで注目によりブランド価値を高め、それによってモテる男の「たった1人」に選ばれようとするもの

このようにヒト社会の配偶には「評判選択」の論理が働く。これは逆方向にも作用し、誰にもやらせるオンナだとか、股が緩いビッチだとか噂を立てられることは女性の配偶戦略にとって致命的重傷になる。だから集めた非モテ男の好意的視線は「お預け」させ、絶対にやらせないという戦略が重要になる。

一夫一妻に関して余談

ヒトがやる一夫一妻の結婚は、(無力な赤ん坊を育てるには二人以上の親が必要だから=)「子育てのため」に進化したんじゃないの?
という意見があり得るかもしれない。

かつてはそう言われていた。しかし、サピエンスの一夫一妻は、じつは女性からの要請ではなく、男性側からの要請(というか非モテたちによるある種の"性の共産革命")だったんじゃないか?ということを各種のロジックをまとめて一番に提唱したのが進化心理学者のロバートライト。(R.Wright 1994)

進化心理学的には、"一夫一妻の結婚"は、子を産み育てるためではなく、男性が各自女性を縛ったことを原因として進化した可能性が高い(それ以前のヒトの女性は、多くの霊長類と同じくアロマザリングで子を育てていた)。オスメス1:1の関係が定着した"後"に、夫婦で子を産み育てる進化が起こった。

人類は「子育てのため」に結婚(= 一夫一妻)をはじめたわけではない、という話。本来の人類の子育てはアロマザリング(=ママ友同士の共同育児)で成り立っていました。 R.Dunbar 2016『Human Evolution: Our Brains and Behavior/邦題: 人類進化の謎を解き明かす』より。

サピエンスが「パパ」役を果たすようになったのは、ペアボンディング(夫婦の1:1の関係性)が進化した後だ。つまり一夫一妻は子育てのニーズから生じたものではない。「パパがいなければ子供は死ぬ」「シングルマザーは苦しい」というのは「夫婦だけで子育てをする」特殊な状況による現代社会の病だ。

メスが進化上において生殖戦略を遂行する場合、「一握りのモテる有能なオスにセックス人気を集中させる」という方にダイナミクスが動く。そしてオスはそれを食い止める立場だ。"一夫一妻"は非モテオスが「なんとか一人だけでもメスを確保したい」という配偶者防衛の戦略をあれこれやることで生じる。

それではサピエンス史の99%を占める過去の部族社会で何が起こったのか?:「男たちの平等」だ。” 妻は一人一つまで “の規範に基づき社会淘汰が生じた、とロバートライトは言う。ここで勘違いしてはいけないのは、部族社会でもモテる男はこっそり複数の女とセックスするが、妻は一人だということだ。