さて、↓の記事を読んでくれただろうか。まだの方は必ず読んでほしい。このページで説明する概念が意味不明に聞こえるからだ。↓の記事の最後にまたこのページに戻って来れるようにリンクが貼ってあるので安心してほしい。

少しだけ振り返りをすると、女がとる戦略は以下の2つ、
- 一途な育児投資が期待できる誠実な男を結婚相手に選ぶ「家庭内至福戦略/Domestic-bliss strategy」
- とにかくモテる性的強者タイプの男をセックス相手に選ぶという「セクシーな男戦略/He-man strategy
①を選んだ場合、育児への資金だの手助けを十分に受けることができるので安定した子育てが可能だ。しかし、一途で誠実な男の遺伝子(他の女に精子をせがまれない性的弱者)を受けついだとなると生殖相手を見つけるのに苦労するだろう。結果、さらなる子孫を残しづらくなる。
②を選んだ場合、セクシーな男の遺伝子を受け継いでセクシーな子が生まれるので生殖相手に困らないだろう。しかし、 セクシーな男は他の女のところにも精子を渡しにいくため、子供が性的に成熟するまでに十分な育児投資が受けられるか疑問だ。これもまた子孫を残しづらくなる。
であった。これら2つのどちらを女が採用するのか、というのが問題だ。
しかし、冷静になって考えれば解答は簡単である。どちらも採用すれば良い。
サピエンスは配偶の短期的文脈(=セックス)と、長期的文脈(=子育て) で好むパートナーを切り替える、というのがD.Buss(2006)が唱えるサピエンスの配偶形態についての進化心理学的定説、ミクストメイティングストラテジーmixed-mating strategiesだ。
もっと親近感が湧く言い方をする。
セクシーな男と浮気して精子をもらい、誠実な旦那に育児資金を出させる、というのが進化心理学的定説、ミクストメイティングストラテジーだ。
「馬鹿な、まるで鳥とか動物がやる托卵じゃないか。」
画面を前にして叫びだしそうな非モテ誠実男の顔が容易に想像できる。残念ながら真実だ。
なんなら、サピエンスの配偶スタイルは単婚型の鳥類がいちばん近いかもというのはよく言われている。鳥類でも「時間差一夫多妻」「結婚しつつも(モテる個体は)浮気セックス」というのはスタンダード。
鳥類のメスは「結婚」している夫のオスに「じぶんが父親である」ことを確信させるために(義務的に)複数回の交尾をする T.Birkhead, A.Møller, and W.Sutherland (1993)──‘Why do females make it so difficult for males to fertilize their eggs?’
鳥類の卵は産み落とされる前日に注入された精子によって受精する。つまり普段は「結婚」している「夫」と夜を営みつつ、受精期間には「気が乗らない」といって夫を避け、モテるオスとこっそり浮気する。サピエンスはどうか?女性が排卵期とそれ以外で好きな男のタイプを変えることはよく知られている。

愛だの恋だの、男と女の性的需要の格差だの、非モテだの負の性欲だの、金だのルックスだのを語り合っているみなさんは、一度、実感ベースでその話するのやめて、生物学や進化心理学のロジックを思考道具につかってみてはいかかだろうか。
コラム
一夫一妻種における絶対貞節の不可──地球上には一夫一妻の種はほとんどおらず、ホ乳類では全体の3パーセントに過ぎないが、その限られた種の動物たちですら、ペア外交尾が確認されており、ほぼ確実に浮気が存在する。
「一夫一妻種の定義に”絶対貞節”を要求すれば、一夫一妻の種はこの世にいなくなってしまうだろう」(by 進化生物学者パティ・ガウティ);もしかすると一夫一妻という配偶形態は、秘められた浮気の存在によってバランスする事ではじめて、ESS(=進化的に安定した戦略)を成すのかもしれない。
プレーリーハタネズミ(献身的な一夫一妻種で、ヒト男女の恋愛行動にもっともよく似た振る舞いを示すことで知られているネズミ)に関して、その生態をよく知る神経生物学者トマス・インセルは皮肉交じりにこう述べる:「誰とでも寝るくせに、座るのはパートナーの隣だけ。」