その他心理

人は自分の身を守るために鬱病になる

現代医学では「うつ」は疾患(エラーやバグ)だとみなされているが、多くの進化心理学者は「鬱病」を生物学的な進化上の適応だとみなす。鬱は、EEA(人類の祖先の環境)において、ヒト個体の生存を確保させるのに非常に適応的な働きをしたのだ、と。(Prince, Sloman, Gardner, Gilbert, & Rohde 1994)

「うつ」は社会における地位競争の敗北に対する、ヒト個体の適切な反応システムとして進化した(自然選択された)。鬱は階級構造がある集団の中で、階級を上げ損なった個体にとって、生存確保のための適応機能として働く。ヒト以外の群れ型哺乳類でも、地位競争に敗れた個体は「うつ」の兆候を示す。

「うつ」システムは動機付けを失わせる。典型的には食欲減退、異性獲得欲減退、野心の減退など。「ある個体が自分よりも強い個体に社会的に打ちのめされたばかりの場合、その個体が自分の立場をすぐに再び上げようと試みるのはあまりに危険(Prince)」なため、脅威とみなされないよう自らを貶めておく。

現代の情報社会ではEEA(部族社会)ではあり得なかった"遠い世界の人々"の暮らしぶりがリアルに身近にみえる。インスタグラムなどで自分より社会的に恵まれた人間たちのメディアイメージを大衆は日々浴びつづけている。「社会的に打ちのめされた」たしかな感覚が、うつ病システムを作動させてしまう。

霊長類学者のドゥ=ヴァールは 「不公平嫌悪感」という心のシステムがヒトを含め霊長類には備わっていると主張する(de Waal 2012)。「キュウリストライキ」とは、キュウリを渡せば喜んで仕事してくれたサルが、隣の野郎の報酬がブドウだと知った途端、キュウリをもらうことを激しく拒絶する現象だ。