その他心理

「人が自分をだます理由:自己欺瞞の進化心理学」を読んだ

人間は様々な高尚な理由(恵まれない子供達のために募金しよう、芸術追求は尊い活動だ、教育による知的能力向上で社会を豊かに…)を掲げて、それに基づいた社会制度・文化を生み出してきた…かのように思えるが実はそれは聞こえの良い建前上の理である。

本音を言えば、同じ人間同士で争う生存・生殖のゼロサム競争ゲームに自分が勝ち抜くためなのである。しかもこの「本音を言えば」の部分が重要なのだが、この「自分が勝ち抜くため」という醜い本音は、実は当の本人もそう思っていない、分かっていない、というのがミソ。つまり生存競争に勝つためという利己的な目標を達成するため、あえて自分自身をも騙し、高尚な理由を唱え大義名分を得ることで気兼ねなく生存競争ゲームに邁進することができるという仕組み。これが動物としての人間が進化の中で発達させてきた「自己欺瞞」という特性である。

そんな目で改めて社会を見渡してみると…あの政治の投票活動もあの宗教儀礼もあの慈善活動も、みんな聞こえの良い高尚な理想を唱えているけど、本人でさえも認識できていないその本音は動物的な生存・繁殖ゲームを勝ち残るための戦略であって、その光景はまるでジャングルの中のサル山の地位争いと本質的に何ら変わらない、都会のジャングルで起こっている人間という獣同士のマウンティング争いだと気づくことができる。

進化心理学は人間行動に説明する能力がきわめて強力で、ほとんどのことが進化上の理由で人間はこういうことしますって説明できる。これは結局人間は知恵のあるだけのサルでその行動原理の根本は突き詰めれば全部、生存競争=エゴ、って話になる。

このとおり一般的な社会通念とは真逆のことが、進化心理学という強力な説明能力でもって具体的な事例を挙げながら解説されていくので、とても説得力があり腑に落ちる。コテコテの一般常識が染みついている人にとっては世の中に対する見方が逆転する衝撃的な本になると思います。

一見して少し分厚く読み応えありそうですが、二部構成になっている。第一部で自己欺瞞の性質を解明した後、第二部ではその自己欺瞞が見られる社会的な活動を分野別に、具体的な例を挙げながら解説していく、というスタイルを取っている。だから、第一部を読みさえすれば第二部のどこからでも興味あるところから順不同で読める。一気読みする必要がなく読みやすい。

人間という存在の、自分たちでは気付かない自己欺瞞という性質を明快に捉えて明らかにしている本書は最高に楽しい読書体験であった。人間の本当の姿を知りたい人には、良書。